母の家建替顛末記-その1-
● Rib設計では相変わらず<スタッフを募集中>です。
応募が来ないのはお正月前後という時期が悪いのか?
設計業界が人材不足なのか?はたまたWebサイドで私の顔写真を公開したのが悪かったのか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●年末から母の家の設計を本格的に始めました。まあ「自邸のようなもの」です。
時間の制約のあまりない仕事なのでじっくりと取り組んでいます。
今回から何回かに分けてこの家の設計で考えたこと、体験したことを記事にしたいと思います。
<南海地震に備えて>
母の家(私の生家です)は大阪府南部のK市の山間部にあります。
(写真①参照)付近は今も緑が多く残り、「ここも大阪なの?」というような感じの場所です。子供の頃はこのあたりの野山を駆け回っていました。今でも時間がゆったりと流れ、私にとっては別天地のような所です。
今は母が一人で気ままに住んでいるのですが、もう少し家をコン
パクトにして余った空地で畑を作りたいという希望があり、手を入
れることにしました。
この建物をそのまま保存しながら再生したいという気持ちもあったのですが母の希望とは相容れないので思い切って建替えることにしました。
手を入れようとした理由としては「南海地震」に備えるというのも重要なポイントでした。この付近には断層があり、阪神大震災でも比較的揺れが大きかった地域です。予想される南海地震の規模を考えると、現状のままでは不安がぬぐえません。
<地震がきたらどうする?>
東南海・南海地震は過去周期的に発生している地震ですので「そのうち起こる」と考えてよい地震です。今後30年以内に50~60%の確率で起こると言われています。根拠の希薄なことを言うのはあまり適切ではないのですが、史上最大規模の地震になる可能性があり、阪神大震災の数十倍の規模で、10分ぐらい揺れが続くという人もいます。(阪神大震災は1分半ぐらいの揺れでした)今の基準による建物で十分安全とは必ずしも言えません。私は南海地震が起こったらどうしたらよいか施主に聞かれた場合、以下のように答えたことがあります。
① 一分以上揺れが続くようなら南海地震だと思ってください。
② 建物の建っていない広場のような場所に逃げられる状況ならならそれがベストです。
③ 家の中でいる場合、玄関あたりや、水廻りといった、壁の多い部分に避難するのが構造上安全です。
できたら平屋部分が望ましい。(その施主は以前小さな地震があった時、吹抜けのある居間部分に集まっていたそうですが、限界を超えたら危険な場所なのでそれはやめてくれと答えました。)
どこが強くてどこが弱いかは建物によって違いますので設計者にどこに避難したらよいか聞いてみてください。答えがもらえるはずです。
<役所の指導に対する疑問>
以上のように予想される状況から考えると、一人でも多くの人命を救うために今行政が取り組まないといけないのは、老朽化した家屋を地震が起こるまでにひとつでも多く建替えるなり、補強をするなりすることです。先ほど「今の基準による建物で十分安全とは必ずしも言えません」と書きましたが、それでもおそらく今の基準をまもれば家がぺしゃんこになって人が死ぬということはあまりないと思います。
ところで母の家について次のような指導にぶつかりました。私の家はみかん農家でしたので敷地内にみかんを保管する倉庫が残っています。(写真②参照 後ろの2F建の建物 昭和45年頃竣工で鉄骨造です)建替えようと考えている母屋は建築基準法ができる以前の昭和15年頃の建物です。耐震性のことを考えると倉庫のほうが安全性の高いのは明らかです。そういう意味でも倉庫に手を加える予定はまったくありませんでした。
ただ写真を見ていただけたらわかりますが、倉庫の前の道は狭くて
「4M未満の道路に面して建物を建てる場合、道を4Mまで広げた位置まで建物を下げて建てること」という建築基準法の条文に違反しています。(かかっているのは10センチぐらいなのですが)
母屋は奥にあって倉庫とは離れた建物なのですが、母屋を建替える際に倉庫を是正しなければ申請は認められないとの指導を受けました。
要するに倉庫を引っ込めなさいという事ですがそう簡単なことではありません。
写真②で手前にある木造の平屋も倉庫でこれは取り壊す予定なのですが、おかしいのは、この平屋の倉庫を残したとしても、役所は何も
言わないのです。!!!変ですよね?なぜかわかりますか?
[役所の考え方]
■建築基準法(昭和25年制定)ができる以前の建物が法に適合しているかは問わない
→これを「既存不適格」の建物と言います
■法制定後に建てられた建物で法に適合していないものは同一敷地の建物の申請をする場合に是正する事
→同一敷地内の「違反建築物」は是正しなさいと言う事です
上記の文章をひとつずつ読めばおかしいとは思いませんが現場ではこのような変なことが生じるのです。
それに対して私は以下のように申し入れをしました
「倉庫は違法であることは認識したが、今回はより危険性の高い母屋の建替を優先したい。後日倉庫に手を入れる場合は必ず違法部分を是正するのでまず母屋部分の建替だけを認めてほしい」
しかし認められません。
この地域にはこのように4Mに満たない道路が多くあり、しかも道路に面して倉庫があって、奥に母屋があるというのはよくあるパターンです。母屋を建替えようとすれば皆同じことになります。回避しようとすればどうなるかというと、①建替をあきらめる→お年寄りが「もう年だし死ぬまでがまんするか」というパターン(結果として若い人が便利な町へ流出することを促すでしょう)②違法に建替をおこなう→善人に違法行為を促す結果となります。 ①を選んだ人は南海地震が起こった場合、生命の危険にさらされることになります。(勇気を持って?)法律を無視したほうの人が助かるのです。これは不条理です。将来近所で私と同じ状況に直面する人たちのためにも納得はできませんでした。
私は役所の人に「そちらの言うことが法律的に正しいのはわかるが、その結果どういうことになるか考えてほしい。そういった指導によって老朽化した建物の建替が進まずに、地震で犠牲になる人が必ず存在するだろう。そういう人たちにそちらは責任を感じないか?」という旨を申し上げました。無駄でしたが・・・・
<法律は何のためにあるんや!>
一回目にも書きましたが「市民が常識通りに生きていてひっかかるような法はルール自体が間違っている」と思います。法は市民の生活に合わせて存在すべきものなのに法をつかさどる人たちの中には法に書いてあること以外は違法だと考える人がいます。従って自分の卵子から生まれた子が代理母を介して世の中に出て来てもそれを親子と法が認めないといった「非常識な」解釈が生まれます。
<で、地震の話に戻りますが>
役所が法に書いてある事しか認めないならば、今すぐ「東南海・南海地震特別措置法」を作り、老朽した建物の建替を促進する必要があると思います。乱暴なことを言えば、地震で多くの建物が損壊するでしょうから、そのあとに基準法に適合させるほうがずっと簡単です。
● 申請関係の話になると愚痴っぽくなるのは職業病のようなものです。ためしにお知り合いで建築設計の仕事をしている方に「建築の申請って難儀なんですってね!」と聞いてみてください。30分は愚痴を聞かされると思います。
●それでもなんらかの方法で建築を成り立たせなくてはならないのが私たちの仕事です。
現在方策を検討中です。
●お口直しに最近心に残った文章を紹介します。なおこのシリーズでは「竹と織物の話」「古民家再生の話」等の話題を用意しています。よろしくお願いします。・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・「女になるのも大変よね。」ある夕方、唐突にえり子さんが言った。
(中略、ちなみにえり子さんは、いわゆる「おかま」です)
「つらいこともたくさんあったわ。本当にひとり立ちしたい人は、なにかを育てるといいのよね。子供とかさ、鉢植えとかね。そうすると、自分の限界がわかるのよ。そこからがはじまりなのよ。」
(中略)
いやなことはくさるほどあり、道は目をそむけたいくらい険しい・・・・と思う日のなんと多いことでしょう。(中略)それでも黄昏の西日に包まれて、この人は細い手で草木に水をやっている。・・・・・・
-吉本ばなな 「キッチン」より-
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